チャーリー・ヘイデンを聴く(2) チャーリー・ヘイデンのダイアローグ

チャーリー・ヘイデンって真摯なミュージシャンだなあと思ったのは、クリード・テイラーがプロデュースして1990年に発売された映像作品Rythmstickをみたときである。車のなかで即興音楽の意義や、スタジオの前でアンソニー・ジャクソンエレキベースでの表現の難しさについて話すチャーリーはすごく真剣で、わずかな会話の端からその人柄がうかがえる。彼は多くのデュオ・アルバムを制作したが、そこには対話を大切にするミュージシャンの姿勢がよく表れているように思う。ここのところ聴き直したのは以下のアルバム。

Charlie Haden, Closeness(1976)

オーネット・コールマンアリス・コルトレーンキース・ジャレットポール・モチアンとのデュオ集。ポールと演奏したFor Free Portugalはポルトガルアンゴラ支配に抗議して作られた。「親密さClosenessとは創造的な過程の一部である」とチャーリーは言う。デュオすなわち汝と我との親密なダイアローグから生まれる音楽の自由。

Charlie Haden&Hampton Haws, As Long As There's Music (1976)

ハンプトン・ホーズは典型的な白人バップ・ピアニストと思いきや、意外な表現の幅を発見する。冒頭のIrene、ファンキーなリフのテーマで始まり途中からウォーキング・ベースのブルースになるところがいい。

Charlie Haden&Christian Escoudé, Gitane (1978)

フランス人でロマの血を引くマヌーシュ・スイングのギタリスト、クリスチャン・エスクーデとのデュオ。弦楽器同士ならではの響きのブレンド。ジャンゴの影。しかしとても自由な対話。こんなに自由闊達に動くチャーリーは珍しい。

Charlie Haden&Pat Metheny, beyond the Missouri Sky (1997)

言わずと知れた1998年グラミー賞ジャズ・インストゥルメンタル賞を受賞した名盤。6曲目から9曲目(The Moon Is a Harsh Mistress/The Precious Jewel/He's Gone Away/The Moon Song)あたりが白眉。中ジャケの写真のようなアメリカ中西部の荒野の空が広がる。同じミズーリ州出身のパット・メセニーとのコラボレーション。

Charlie Haden&Keith Jarrett, Jasmin (2010)

Charlie Haden&Keitth Jarrett, Last Dance (2014)

2007年、キースの自宅で録音された音源。コメント不要であろう。

チャーリー・ヘイデンの偉大さはこうしたデュオを聴くとわかる。決して器用なベーシストではない。だが彼のプレイは対話者を触発し、限りなくインスパイアする。そこが面白いのだ。

5月は夕暮れどきになるべく人を避けながら自宅近くの小金井公園周辺の小径をよく散歩した。お供をしてくれた音楽はチャーリー・ヘイデンであることが多かった。何とか状況を乗り切り、どうやら仕事に戻るときが近い。ありがとう、チャーリー。