陣野俊史『魂の声をあげる』—現代史としてのラップ・フランセ

GWあたりから読み(聴き)はじめ昨日読了。陣野さんのガイドに導かれてそこに登場する音楽を片端から聴いていく至福の時間。夕食後ウイスキー片手にyou tubeをチェックしていると「へえ、お父さんラップなんか聞くんだ」とUは意外そうな顔をした。(そうだな、いつもはジャズか最近はまったHi Fi Setだからな。)ともあれ、この至福の時間が終わってしまうのは淋しい。それほどインパクトのある、新しい音楽との出会いであった。

フランス語ラップを通じて、1990 年代から2020年までの30年にわたる、ストリートから捉えるフランス現代史を辿る。サルコジの暴言が引き起こした2005年のパリ郊外の暴動、2015年のシャルリ・エブド襲撃事件、移民問題、階層やジェンダーなどさまざまな差別。強烈なリリックが叩きつけるプロテストのうねりと映像は圧倒的だ。フランス語のラッパーとしてはMC Solaarしか知らなかったが、本書冒頭で取り上げられたProse Combat(1994)は懐かしい。ディジョンの大学の夏期語学講座を取っていたある夏、Nouveau Western がディクテーションの課題となった。まったく歯が立たなかったのを覚えているが、めちゃカッコいいのでfnacでアルバムを買って繰り返し聞いた。ぼくにとって、やはりこれが音楽として最高。本書で知ったアーティストのなかで、すごかったのはDiam's。キレキレである。イスラムに入信した彼女はカムバックするのか。ジャック・クルシルのトランペットやフリージャズのミュージシャンが参加しているロセのIdendité en crescendo(2006)はグリッサンの詩学圏にあるようで、要チェック。ネグリチュードのラッパー、ユースーファのNGRTD(2015)、アブダル・マリクのGibraltar(2006)もアルバム単位でじっくり聴きたい。ガエル・ファイユの<Petit Pays>に出会えたのもよかった。