八方尾根スキー

無性に八方尾根に行きたくなった。スキー場から雪を頂く唐松岳を見たくなったのだ。白馬に宿を取り、新しい板を買った。金曜日、午前中の授業を終えて午後休暇を取り、出発。クラブ活動で忙しいUは今回は付き合えず、30年ぶりの単独スキーである。ボロディン交響曲3曲、ブルックナーの0番、マーラーの1番と長尺のシンフォニーを聴きながら関越道~上信越道を快調に飛ばしているうちに日が暮れる。長野ICで高速を降りたところにある見つけた食堂で夕食。松代食堂という。いろんなおかずが選べてどれにしようか迷った末、サバの味噌煮、長芋磯辺焼き、豚汁を頼む。けっこうおいしかった。夜の帳が下りると少し寂しくなる。アブド・アル・マリク『ジブラルタル』、ジェームス・ブラウン『セックスマシーン』なんかで気分を上げながら白馬長野道路を西進し、夜7時過ぎに白馬村に到着。道路に雪はまったくない。闇のなかにぼーっと浮かび上がる雪山が不気味な「魔の山」に見える。宿にチェックインして近くのコンビニまで往復すると、小学生だったUを連れてきた6年前とは雰囲気が一変していた。歩いているのは海外からのスキーヤーや観光客ばかり。ホットドックの屋台や「寿司&イタリアン」という不思議なレストランや、いかにも海外からのお客さんをターゲットにした店ばかりが目に付く。スキー場はもはや国際サナトリウム、いや国際リゾートである。宿に戻り、温泉に浸かり、ウイスキーを飲みながらトーマス・マンとLéonora Mianoを読み進める。のんびりしたオフの時間。

翌日は張り切って、リフトが動き出す8時に滑り始めるが、ガスがかかって山はよく見えない。ここ一週間雪が降っていないので雪面はガリガリ、2月上旬とは思えない最悪のコンディション。温暖化の影響は深刻だ。ゲレンデ最上部標高1850mの八方池山荘で昼食。カツカレーを平らげてコーヒーを飲んでいるとスウェーデンから来たという数人のグループが隣に座った。八方のパウダースノーを期待していたんだけど、と彼らも残念そうである。昼食後山荘を出ると、一瞬ガスが切れ、北アの主稜線がちらりと姿を見せた。うーん、よかった。稼働しているリフトはすべて乗り、ウラクロとオリンピック以外の全コースを制覇した。夕刻、リフトが止まる16時少し前、うさぎ平テラスで飲んだスタバのカフェラテが疲れた身体に沁みわたった。