2016-01-01から1年間の記事一覧

声の氾濫

作家は声を得たのだった。以前カントリー・ブルース研究をしていたときに読んだ本のどこかで、とあるブルース歌手がこんなことを言っていたのを思い出した。。誰かが歌った歌詞を歌うとするだろ。クリシェであっても、それを自分で歌うとき、それは自分のも…

新しい野生の地 リワイルディング

渋谷アップリンクで『あたらしい野生の地 REWILDING』を見る。マルク・フェルケルク監督、2013年。オランダの首都アムステルダムからわずか北東50kmの海沿いに位置する6000hの自然保護区「オーストファールテクスプラッセン」の生態系の復元を描いたドキ…

ペソアとハーンの秋

忘備録。勤め先の秋の祭りが猛烈な雨の襲撃に翻弄された9月はタブッキ『フェルナンド・ペソア最後の3日間』とペソア『不穏の書・断章』を読んでいた。遅まきながら、ポルトガル語からペソアを訳された澤田直先生のすごさを認識した。「一流の詩人は自分が実…

ハイキングとヴァンジ彫刻庭園美術館

11月6日−7日と家族でハイキング旅行。6日は山梨県精進湖(「しょうじこ」と読む。ずっと「しょうじんこ」だと思ってた)北方の尾根を歩く。湖畔のPに車を置き、女坂峠から三方分山(さんぽうぶんやま)へ。紅葉真っ盛りまでいま一歩だったが1422mの山頂で雪…

Bob Dylan I’m not Threre(2007)

ノーベル文学賞をボブ・ディランがとって巷は大騒ぎのようで、音楽に乗ったことばがエクリチュールに与えられる社会評価枠に食い込むという事態は「言語態」的にみると革命的な現象であろうが、いかんせんPPMのカバーで知ったBlowin' in the Windとキース・…

『コバ』を読んだ夏

平凡な生活環境にちょとした変化があり忙しくなった今年の8月であった。この夏はひたすら『ラマンタンの入江』の翻訳作業。「海の氾濫」の章がようやく終わった。そこに書評として取り上げられているAlain Borer Koba(2002)を読んだ。すごく面白かった。神々…

旅する音楽:仲野麻紀+ヤン・ピタール+常味裕司

笠間直穂子さんからお知らせをいただいて、おお仲野麻紀だ、これは行かなくては、と国学院大学の常盤松ホールに出かける。仲野さんの演奏は2011年11月に西麻布のスーパーデラックスで聞いていて、すごく印象に残っている(「散歩者の日記」にも記録がある)…

雨上がりの月夜

仕事場から町田まで、コントラバスを借りに車で往復、3時間。気温は30度近くまで上がり暑い一日だったが、夕方雲行きが怪しくなった。家に帰りビールを飲んでいると、案の定雨音が聞こえてきた。新緑の庭の草木や屋根を優しく打つ雨の音。気持ちいい音だね、…

久々のブルース・ライブ

4月になり、ろくに本を読むひまもなくなったが、今日は同僚のギタリストTに誘われて、夜、自転車を飛ばして国分寺gieeへ。最初のデュオはTのボトルネックで一気にディープ・サウスへ。ボーカルはロニー・ジョンソンがよかった。二つ目の若者のデュオはモダ…

中村隆之『エドゥアール・グリッサン』

エドゥアール・グリッサン(1928−2011)は21世紀に読まれるべき作家である。カリブ海のフランス植民地である小さなマルティニク島に生まれ、パリに留学し、そこで詩人としてデビュー。書評家の仕事を積み重ねるとともに、ネグリチュードの詩人セゼールから「…

セゼール、キンケイド、シュバルツ=バルト、環カリブ文化研究会へ

午前中、子守。Yの最後のオイリュトミー。それから子供たちが輪になって毛糸のひもを使って図形を作りながらの掛け算の授業。さまざまな幾何学模様の出現にみんなびっくり。 午後は本郷の外大サテライトキャンパスにて第2回環カリブ海研究会を聴講。福嶋亮…

第3回プレザンス・アフリケーヌ研究会:セゼールと『アコマ』

午前中、新しい人生のステージへ旅立つ若者たちを見送り、午後2時より外大AA研へ。 まずは松井裕史さん「隆起する大地の夢想−−セエールの詩学と政治」。土地+人+言語がワンセットになって立ち上がるnation。文学はその構築を担う。クレオール文学の領域は…

ボッティチェリ展

豪華絢爛の「書物の聖母」のチラシにおびき寄せられて(?)、東京都美術館でボッティチェリ展を見る。繊細な描線と表情。師匠のフィリッポ・リッピ、弟子のフィリッピーノ・リッピと比べてもインパクトの差は歴然としている。まったく月並みな言い方だが、…

滝口悠生『死んでいない者』

一人の老人の通夜に集まる親戚の人間模様が淡々とつづられる。そのありさまはまるで、弔いという儀式がひとつの神経細胞の中心で発火し、その光が周囲のシナプスへと連係されていく一瞬が浮かび上がるかのようだ。その死がなければ決して確認されないであろ…

フォースター『小説の諸相』

昨年読了したE.M.Forster, Aspects of the Novel(1927)のノートをようやく取り終えた。テクストはペリカン・ブック。5年ほど前に仕事場で大量に廃棄されたペリカン・ブックを何冊かもらったのだが、そのなかにフォースター『小説の諸相』が混じっていた。昭…

玉川上水を歩く(2)

川沿いウォーキングをシリーズ化することにした。今日は玉川上水第2回。以前は2010年2月27日に井之頭公園〜高井戸を歩いている。今日は小金井橋〜井之頭公園をトレース。ちょっと前に買ったケンプのコンチェルト・ボックスをこのところ聞いている。ウォーク…

ズビャギンツェフ『父、帰る』

久々のWC研。ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督のデビュー作『父、帰る』(2003年)を観る。ロシア辺境の地、フィンランド国境のラドガ湖とその周囲の荒野の風景のなかに引き込まれる。日曜日から土曜日という7日間のストーリー設定がキリスト磔刑へ…