滝口悠生『死んでいない者』

一人の老人の通夜に集まる親戚の人間模様が淡々とつづられる。そのありさまはまるで、弔いという儀式がひとつの神経細胞の中心で発火し、その光が周囲のシナプスへと連係されていく一瞬が浮かび上がるかのようだ。その死がなければ決して確認されないであろう遠い人のつながりが「関係」として束の間のあいだ立ち現れ中継されるが、中継される人間模様は、あくまで淡々と「死んでいない」レベルの体温で連鎖する。その流れはどうやって終結するのだろう? 誰が鳴らしたのかわからない鐘の音が闇夜に響き、一人の親族の女性が飛ばす車のFMラジオからドナ・サマーが聞こえてきたところで、ほどよい余韻を残しながら中継はフェイドアウトしていった。2016年第154回芥川賞受賞作。
幼い頃の滝口さんにお会いしたことがある。饒舌なお父さまに始終語りかけられて、ちょこんと座っていたお姿を記憶している。