UPLINK吉祥寺で妻と『オスカーピーターソン---black + white』(バリー・アヴリッチ監督、2020年)を観る。強力にどこまでもドライブするこの超絶技巧ピアニストのプレイさながら、短いシークエンスを連鎖させてどこまでもハイテンションで突き進む映像構成にやや圧倒された。オスカーがなかなか渋い喉を聴かせることは知らなかった。これは収穫。カナダという文化的「周縁」は、グレン・グールドとオスカー・ピーターソンという二人の天才的ピアニストを生んだ。グールドはトロント、ピーターソンはモントリオール生まれ。グールドはコンクールと無縁のキャリア形成を経てコンサートをドロップアウトしてスタジオに引きこもった。オスカーは対照的に、ノーマン・グランツ率いるJATPに参加し夥しいライブ録音を発表していった。オスカー・ピーターソンをそれほど意識して聞いた記憶はないのだが、レコード棚を覗いてみたら、ざくざく出てきたではないか。トリオ編成だけでも6枚あった。以下忘備録。
・At The Stratford Shakespearean Festival (Verve, 1956) ハーブ・エリス(G)、カナダ、オンタリオ州ストラトフォードでのライブ。ナット・キング・コールもそうだが、初期の「ピアノ・トリオ」はドラムスではなくギター、ベース、ピアノの構成だった。
・The Sound OF The Trio (Verve, 1960) シカゴ、ロンドンハウスでのライブ。エド・シグペン(Ds)、レイ・ブラウン(Bs)を従えた鉄壁のトリオ。オスカーにぴったり寄り添うエド・シグペンの繊細かつダイナミックなブラシが最高。
・Something Warm (Verve, 1961?) ロンドンハウスでのライブ。
・Night Train (Verve, 1962) ロス・アンジェルスでのスタジオ録音。
・In Tokyo 1964 (Pablo, 1964) 東京ライブ。 Somewhereでのレイ・ブラウンのアルコは絶品。日記のどこかでジャズ・ベースの弓弾きが一番うまいのはポール・チェンバースだ、と書いたような気がするが、レイの方が上手いかなあ。
・Eloquence (Limelight, 1965) コペンハーゲンでのライブ、鉄壁トリオの最後のライブ録音。
・The Way I Really Play (MPS, 1968) スタジオ・ライブ録音、サイドはサム・ジョーンズ(Bs)&ボブ・ダーハム(Ds)となる。ダーハムのドラムスはパワフルでマッコイ・タイナートリオのようなエネルギーを発散する名盤。
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なんでこんなに持っているのだろうと考えているうちに思い出した。就職して数年たった頃、同僚の国語の教師から、知り合いのジャズ喫茶が店をたたんでLPを始末するので100枚1万円で買わないかと持ち掛けられた。見せてもらった数箱のなかから、気に入ったものやその同僚から「これはいいぞ」と勧められたのを手あたり次第に選んだ。そのなかにオスカーが入っていたわけだ。(ちなみにエルモ・ホープもずいぶんあった。エルモ・ホープについてはまた改めて書こう。)
そんなわけで、映画を見た後しばらくオスカー・ピーターソンが我が家のターンテーブルに乗るようになった。ついでに次の3枚も仕入れた。
・Oscar Peterson Plays Count Basie (Verve, 1956) ハーブ・エリスにバディ・リッチ(Ds)が加わったカルテット構成。
・A Jazz Portrait Of Frank Sinatra (Verve, 1959) 鉄壁トリオの1枚。シナトラ集を作ったのはオスカーもヴォーカルが得意だったからか。
・Please Request (Verve, 1964) オスカー・ピーターソン入門盤。鉄壁トリオ。
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オスカー・ピーターソンのアルバムでお気に入りは、と聞かれたら次の2枚を挙げる。サイドに回ったときのオスカーが好きなのだ。
・Only The Blues (Verve, 1958) ソニー・スティット(Ts)のリーダー・アルバム。
・Anita Sings The Most (Verve, 1956)
Only the BluesのB面(LPだからね)1曲目B.W.Blues。出だしのブギウギのパワフルなこと。(昔、このLPをジャズ喫茶でリクエストすると決まって何人かの客がジャケットに眼を向けた。な、いいだろ、と内心悦にいったものだった。)また、ジャズ・シンガーのなかでも卓越したアドリブを取れるアニタの最良の伴奏者はオスカーだろう。
夕刻疲れて帰宅して、家事をしたり食事を作ったりしながらオスカーを聴いていると、人生とはそんなに複雑なものでもないかなと思えてくる。
鉄壁トリオによるC Jam Blues 恐るべきドライブ感。