Keith Jarrett / Rio

音楽はi podやカーステレオで聴き流すことがほとんどの日常生活。でも敬愛するキースの新譜だけは例外で、最初は必ず家のメインのシステムで聴くことにしている。スピーカーに向かって集中して音楽を聴く時間がない日々、昨年11月に買ったCD2枚組のソロアルバムをきょうやっと聴いた。
 ジャケットが明るい。2011年4月9日のリオ・デ・ジャネイロでのソロ・コンサートのパフォーマンスだが、南米でのコンサート・ライブのCD化は初めてである。今年67才になるキース・ジャレット。往年のリズムの切れやフレーズの粘り、あの圧倒的なエネルギーは影を潜めつつある。パフォーマンスの区切りも、病で倒れる90年代までは40分以上の長尺だったが、最近は数分単位の連鎖で組曲風になっている。多様な色彩のパレットから繰り出される即興音楽のカレイドスコープ。今回は15のパートに分かれ、ひとつのパフォーマンスが5〜6分、スタンダード・ナンバーはない。以下は印象スケッチ。
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 パートⅠ:モダニスム風の無調的音楽。最近のコンサートではこのプロコフィエフ的なエネルギーの塊の表出で幕をあけることが多いように思える。タッチはやや軽い。6分すぎに現れるスパイラル状のモチーフ、そのあとの雨だれのようなアクセントのリズム音型(Book of waysにこんなのがあったかな)が興味深い。
 パートⅡ:EとD#のトレモロで開始。ペダルを多用したアルペジオの流れはハープ的。定量的リズムはないが、高雅で悲劇的なパヴァーヌの趣。
 パートⅢ:初めて定量的リズムがあらわれる。3拍子のベースラインにうねるようなジャジーなラインが乗る。コードチェンジはめまぐるしく調性がくるくる変わる。憂いを含んだラインだが後半雲間から時折日が差す。
 パートⅣ:和音の響き。コードにメロディが乗るジャズ・バラード風の音楽。
 パートⅤ:ベースラインとリズムがしっかり出るファンキーでカントリーで呪術的ニュアンスもあるキースお馴染みの音楽。Staircaseのなかの1曲をちょっと思い出した。
 パートⅥ:前曲と同じようにベースラインとリズムをもつ音楽。でも「なんとか風」と言いがたい、やや抽象的雰囲気で、構造そのもののエネルギー表出を楽しんでいる感じ。
 パートⅦ:ゆっくりしたマイナーの感傷的メロディ−。名曲Mon coeur est rougeをちょっと彷彿させる。
 パートⅧ:3拍子の明るいラテン的フレイバーの小曲。かわいいけどやや慎重?
 パートⅨ:今までとタッチががらりと変わり力強く明るく輝き渡る! これぞキースである。光の粒がきらめくようなアルペジオ主体の音楽。後半ネイティヴ・アメリカン風のメロディーもちらり。充実したトラック。
 パートⅩ:Ⅰと同じ傾向の無調で無窮動の音楽。両手のユニゾン
 パートⅩⅠ:Blues in G。ご機嫌!
パートⅩⅡ:スタンダーズ・トリオのイントロでよく聞かれたバラード風の音楽。複雑に和声づけられたメロディに対位法的な動きも加味され高度で充実した即興音楽。
 パートⅩⅢ:中東風の装飾をほどこされた輪郭のはっきりした高雅で感傷的なメロディ。とてもよい。
 パートⅩⅣ:うねるようなテイストをもつfunky & earthyなキース・ミュージック。でも突き抜ける明るさではなく少し憂いを含む。これが今のキースなんだな。音楽っていいなとふと思うトラック。
 パートⅩⅤ:スクリャービンラフマニノフっぽい幻想曲。音楽はゆるやかな大河となって終わった。
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 ブラジルでのパフォーマンスとあって、もう少しラテン的な即興があるかと思ったら肩すかしをくらった。でも聴衆の反応をみながら音楽を繰り出し、聴衆も熱心に聴き反応している様子が聴き取れる。とてもよいコンサートライブだった。Ⅸ、ⅩⅡ、ⅩⅢはすばらしいよ。