Bala Dée(le son du bois)

 先週末から腰痛が悪化しコルセットをつけるはめになった。どうしようか迷ったがやや回復してきたので西麻布へ向かう。日仏アフリカの混合ジャズ・ユニットBala DéeをSuper Deluxeで聴く。スケールの大きな〈全―世界〉音楽会だった。まずはA.sax&metal-cl&vo.の仲野麻紀とg&oudのヤン・ピタールのデュオから。ギターはルーパーを駆使して2人とは思えぬ音の厚み。インドやマグレブの香りが漂う。ときどきお茶目なエフェクトがかかるけど。仲野さんはフリー系のアプローチでとてもフレキシブルな即興者だ。脳裏をかすめるオーネット・コールマン、ブレッカーのスピード感、ちらっと引用されるコルトレーンの「至上の愛」...。そのあと日本人のベーシスト、ガストン・ジーコのドラム、そしてブルキナファソ出身のバラフォン奏者ムッサ・ヘマが加わりフル編成の演奏となる。ただアビジャン出身のカマレンゴニ(アフリカ伝統的弦楽器)奏者バシール・サノゴがビザの関係で来日できず、残念だった。震災への追悼の意味を込めて演奏された宮城の「大漁唄い込み」や自身のオリジナル「歌の庭」で仲野さんは雰囲気あるふわっとしたヴォーカルを披露した。「歌の庭」はとてもいい曲だ。
 それにしても驚異的だったのはムッサ・ヘマのバラフォンバラフォンといえば今から15年くらい前、パリの地下鉄の通路で聴いた演奏を思い出す。初めて聴くその柔らかで深い音色に魅了された。そのときは3人ほどの合奏だった。ペンタトニックの鍵盤の下にはおおきなヒョウタンがついていてこれがビリビリと共鳴して音にエッジを与える。それにしてもヘマさんのテクニックは凄かった。左手のマレット1本で複雑なリズムパターンを出し、その上に右手のマレット1本でものすごい速さのメロディを紡ぎ出す。そのポリリズムの絡み合い。これをピアノでやると、キース・ジャレットの即興音楽のある部分になるなあ。ヘマさんには大きなソロのスペースが与えられていた。10代を船乗りとして暮らしキューバで音楽を学んだというドラム奏者ガストン・ジーコさんとの長尺のバトルも手に汗握る熱演。いったいどうやって終わるのかハラハラした。アンコールの最後には乗りに乗ったヘマさんがSamoin lele (travaillons avec joie)というワーク・ソングを歌いオーディエンスとコール・アンド・レスポンス大会。会場は一気にアフリカと化す。いったい一晩中続くのかと思われたが、ひとしきり盛り上がったあとさっと幕となったのが助かった。まだちょいと腰には負担が重かったからね。それにしてもすばらしいコンサートだった。ただ欲をいえば仲野麻紀さんのソロをもう少し聴きたかった。ヘマさんのCD《Pays de mes Pensées》を買って帰る。はっきりいってこれ、お勧めです。机の上で、車の中で繰り返し聴くことになるだろう。