ペレ――ハワイの神話

日曜出勤で仕事をしたあと、渋谷のサラヴァ東京へ。楽しみにしていたAYUO&管啓次郎の音楽劇「ペレ――ハワイの神話」、予想どおり大入り満員である。タヒチからやってきてハワイ島プナの火山地帯を司る女神ペレとその妹であるフラの女神ヒイアカ、フラの達人少年ロヒアウをめぐる愛の物語。管啓次郎のエセーはハワイの神話を題材として明晰な言葉で〈詩〉を実現するひとつの流れ。その流れは神話から地球のエネルギーそのものへと向かう。それにAYUOの音楽の流れが交錯する。音楽を構成するのはヴォイス、弦楽四重奏、パーカッション、アイリッシュ・ハープ、ダブル・リードの笛(コロナミューズというのだそうだ)。使用言語は日本語、英語、それにハワイ語が入り混じる。そしてすばらしいダンスが加わる。小編成ながら時空を超えたさまざまな要素から編み出された「オペラ」だった。理知的な言葉が音楽や舞踏表現と一体となってひとつのディスクールを成立させている。とても新しい試みである。何年か前に見た多和田葉子&高瀬アキのパフォーマンスを思い出した。もちろんそれとはまったく異なった表現世界である。再演が望まれる。AYUOの音楽はどのピースも完成度が高く、即興的要素も随所に盛り込まれていた。Voices in the Windは名曲である。詩もいい。それは「あなた」が孕む射程の大きさがもたらすものだ。フラの動きも取り入れたダンスも新鮮だった。それから個人的にいえば、「トリスタンとイゾルデ」が挿入されたときは驚愕だった。半音階的進行と和声的解決が遅延されることでエネルギーが果てしなく蓄積されていくあの無限旋律。なんということだ、なあ、ワグナーだぜ、こんなところに出現するとは、なんという...。わずか4つの弦楽器が表出するエネルギーの凄まじさ。あらためてワグナーの威力を思い知らされた。太平洋の孤島に忽然と姿をみせたバイロイトの神殿の影。その透明な祭壇に舞うダンスのスケール感も圧倒的である。ハワイの神話は、まったく新しい意匠をもってみずみずしく翻案された。