旅する音楽:仲野麻紀+ヤン・ピタール+常味裕司

笠間直穂子さんからお知らせをいただいて、おお仲野麻紀だ、これは行かなくては、と国学院大学の常盤松ホールに出かける。仲野さんの演奏は2011年11月に西麻布のスーパーデラックスで聞いていて、すごく印象に残っている(「散歩者の日記」にも記録がある)。前半はギターのヤン・ピタールとのデュオ〈Ky〉。1曲目Recto-versoはエフェクト豊かな、たゆたうギターのサウンドから11拍子のテーマへ。コルトレーンの影がよぎるフリーな演奏。2曲目サティのJe te veux。おしゃれ。3曲目un oeil, une histoireで仲野さんはテナーからメタル・クラリネットに持ち替え、サーキュラー・ブリージングを駆使してノイズとサウンドのあわいで吹く。ヤンはウードに持ち替える。複弦で琵琶のような音色のアラブの楽器ウードを始めて生で聞く。4曲目は仲野さんがトルコのミュージシャンと即興で作ったというde pres et de loin。なぜかオーネット・コールマンの『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』の「ミッドナイト・サンライズ」を思い出す。5曲目は、スーパーデラックスでも聴いた「大漁歌い込み」。これは僕の大好きな仲野さんのアルバム『OUT OF PLACE』にも入っている。フラジオの嵐が圧倒的。ヤンの「あーそれそれ」が愉快。6曲目Traversee clandestineはシーケンサーを用いたループ上にフリーなブローイング。すごかった。休息のあと、日本を代表するウード奏者常味裕司の登場。お話しから、イランからマグレブまで分布するというウードの広がりを知る。それにしても常味さんの演奏のすばらしいこと! 切れ味鋭い乾いた音は沙漠の風を運んでくる。後半第1曲はレバノンの歌手が歌って有名になったという古典歌曲「セビージャの娘」。仲野さんはアラビア語で歌う。2曲目はエジプトの歌手でウード奏者アブドゥル・ワッハーブの「永遠なるナイル」。古賀政男が晩年なんとエジプトでワッハーブに会っているという常味さんのお話しにびっくり。いかにも純日本風に思われる古賀政男の音楽が実は北アフリカ民族音楽と共振していたかもしれないというお話しに、ここにも〈全‐世界〉への入口があるのだなと思った。3曲目はヤンと常味さんの手に汗握るウード・バトル。そのあと常味さんのソロ、ヤンさんのBleue、最後にエジプトの曲が弾かれ、充実したコンサートは幕を閉じた。ウードに開眼した一夜であった。