Bob Dylan I’m not Threre(2007)

ノーベル文学賞ボブ・ディランがとって巷は大騒ぎのようで、音楽に乗ったことばがエクリチュールに与えられる社会評価枠に食い込むという事態は「言語態」的にみると革命的な現象であろうが、いかんせんPPMのカバーで知ったBlowin' in the Windとキース・ジャレットが弾いてたから知ってるMy Back Pagesくらいしかわからない門外漢にあれこれいう資格はない。このところ興奮気味の同僚のブルース・ギタリストTからいろいろ音源など貸してもらったので、まあ、これをきっかけに聴いてみようか。昨日はWC研でトッド・ヘインツの『アイム・ノット・ゼア』を観る。6人の俳優がボブ・ディランの人生のさまざまな局面を虚構的設定で演じるマニアックな映像。ディランの人生の軌跡や言動とどのようなリンクがあるのかはわからない部分がほとんどだったが、ホーボーを演じた黒人少年がウディ・ガスリーに会いに行くところなど、表層のストーリーの束はそれ自体として面白かった。
 それにしても、ディラン自身がそもそもプロテスト・ソングを歌うことを音楽的使命としていなかったことは明らかだろう。フォークからロックへ転向して批判を浴びたディランであるが、この映画を観ながら「ボブ・ディラン」を「マイルス・デイヴィス」に置き換えることもまったく可能である思う。ディランにとっての「フォーク」はマイルスにとって「ジャズ」だったわけだから。