10月の2つのテクスト

  管啓次郎『本は読めないものだから心配するな』を読んでいる。「触発」という二文字がふさわしい素晴らしい読書の時間。p.47に引用されている田村隆一の「見えない木」の一節と久々に再会した瞬間、自分の身体のなかに或る感覚がたちまち蘇った。それは20代に雪山を歩いていたときの感覚である。自然との交感のなかで鋭敏になる身体感覚。それが今蘇ったことに驚く。言葉は身体と連動している。
                               ★★
  夕飯のあと、子供を寝かせてから新宿に出かけ、タイムズスクエアHMVキース・ジャレットの新譜を買う。Testamentというなんだかすごいタイトルのソロ・アルバムである。2008年パリとロンドンの最新ライブ。2001年をピークに最近は下降線かなと思っていたところにいきなりの3枚組である。興味と期待が高まる。
  レジを出てアイスクリームを食べながら封を切り、フロアのベンチで英語のライナーを読み始めてぎょっとした。それは妻ローズ・アンが自分の許を去ったことでひどく精神的ダメージを被ったピアニストの極めて個人的な手記であった。これがあのpretentiousで気難しい即興音楽家の文章であろうか...。家に帰って深夜ヘッドフォンで1枚目のサル・プレイエルでの演奏を聴く。圧倒的だった。