幼児失踪

  いい天気ののんびりした休日に肝を冷やした。息子を連れて散歩に出かけたのだが、いつもは母親に連れていってもらうお気に入りの児童館の隣にある公園に着いて、途中で買った巻きずしを食べようとしたら、お茶を買うのを忘れているのに気づいた。ベンチに座らせて「すぐ戻ってくるから待っててね」と念を押して少し離れた自動販売機まで行って帰って来たら、姿が消えていた。そう広くない公園を見渡してもどこにも見当たらない。公園に居た何人かの人に尋ねても、誰も気づかなかったと言う。しまった! 蒼くなって公園を飛び出し、大声で名前を呼びながら辺りを探すが見つからない。携帯で自宅の妻に連絡を取る。道を歩いていた人に手当たり次第「2歳くらいの男の子を見ませんでしたか?」と尋ねると、4人目の女性が小さな路地を指差し、あの道を抜けた角の辺りにいましたよ、と教えてくれた。全速力でそちらに向かうと、時々買い物をする酒屋兼スーパーの店先に、店のご主人と一緒にいる息子を見つけた。ちょうど反対側から走ってきた母親の顔を見るとうわっと泣きだした。ご主人によると、パパ、パパ、と叫びながら店のあたりをうろうろしていたそうだ。その店は車の往来も結構ある道沿いにある。一歩間違えば交通事故に遭うところだった...。公園に戻り、ベンチに放り出されたお寿司を3人で食べる。冷静になって考えてみたら、息子が辿った道は500mほど離れた家に帰る最短ルートであった。父親を見失った彼は、一目散に家に戻ろうとしたのだった。