「アメリカ黒人映画傑作選」を観に渋谷の映画館に通った。渋谷を歩くのは疲れるが、フィルムはどれも刺激的だった。(注意:以下ネタバレです)
4月19日(土)
Bless Their Little Hearts「小さな心に祝福を」(1984)
アフリカ系の映画人集団L.A.リベリオンの代表的人物、ビリー・ウッドベリー監督、ャールズ・バーネット脚本のモノクロ・フィルム。ロスのワッツ地区に住む貧しい黒人一家の日常の一コマが切り取られる。失業者チャーリーと3人の幼い子供を支える妻アンダイスはチャーリーのちょいとした浮気に怒りを爆発させる。チェスター・ハイムズの小説にでも出てきそうな、うだつのあがらないチャーリーを演じるネイト・ハートマンが、とぼけたいい味を出している。シーンはほとんどが室内の生活描写。だから最後のところで海岸で釣りをするシーンは解放感がある。ラストの道ばたで魚を売るところで、あれっという感じでエンディングするところが良い。貧困層の生活がつぶさに描かれ、黒人格差という重い社会問題がさりげなく提示され(いや、夫婦喧嘩の場面は壮絶。そこでアンダイスは心に溜まったストレスを吐き出す)、くすっと笑わせる。チャーリーはしきりにタバコをふかすが、酒を飲んで酔っぱらうシーンがないのが面白い。音楽はブルース系、ダイナ・ワシントンが流れたか?
4月20日(日)
Losing Ground「ここではないどこかで」(1982)
若くして亡くなったキャスリーン・コリンズの力作。大学で哲学を教えるサラと画家の夫ヴィクターとの一夏の避暑地でのすれ違いがサイコアナリティックに描かれる。ウッドベリーの作品に比べてこちらはぐっと洗練された知的な世界が展開する。音楽もそれに呼応するかのように、洗練されたジャスとなる。サラ役のセレット・スコットはスリー・ディグリーズのシェイラ・ファーガソンにちょい似てる(似てないか)。サラが次第に心惹かれてゆく男性の役者はデクスター・ゴードンを彷彿とさせる。マザコンのサラよりも苛立つ独りよがりなヴィクターの肩を持ちたくなるのは僕が男性だからか? 夫婦のジェンダーを交換したら、このプロットはどういった印象を与えるのだろう、なんて思う。不穏な空気に包まれるパーティの場面で「二グロ」と「プエルトリカン」との溝が浮上するところがインパクトだった。現実界と想像界が次第にオーバーラップし、劇中劇の最後の場面が象徴的。
4月22日(火)
Daughters of the Dust「海から来た娘たち」(1991)
ジュリー・ダッシュの傑作。圧倒的!これを鑑賞できたのは幸せだった。1902年、50年前に最後の奴隷船に乗せられてウエスト・インディーズに拉致され、さらにこのシー諸島の島に移住した女系家族、ペザント一族は合衆国本土に移住を決意する。長老ナナは動揺する。アフリカとの絆を民間信仰に支えを求めるナナ、キリスト教に改宗した若い世代、イスラム教徒(あまり前景化しなかったけど)、ネイティブ・インディアンといった多様な文化・エスニシティが交錯するなかで、黒人奴隷の末裔たちは、さらなる移住を前に逡巡する。島を去るものがいて、島に残るものがいる。神話的スケールで展開する映像詩。海辺のシーンが美しい。まさにTout-monde! グリッサンの詩学圏に入る傑作である。
Black American Cinemaはヒューマントラスト渋谷にて5月8日まで。ブラック・ディアスポラに関心のある人は必見の3本です。