管啓次郎×小池桂一『野生哲学 アメリカ・インディアンに学ぶ』

  原発事故のあと、私たちは自らの生きる土地と世界をどのように再想像すべきなのか? 『野生哲学』はそのためのヒントを与えてくれる。「都市」に生きるわれわれが失ったものは何なのか? 見えなくなったものは何なのか? 感じられなくなったのは何なのか? 都市の価値観が削除したものは何なのか? 本書を読むにつれてそうした一連の問いが切実なものとして浮上してくるだろう。アメリカ合衆国という土地の古い地層を形成するアメリカ・インディアンの文化を辿る旅は、単なる民族誌的興味を満足させるものではない。それはわれわれが今こそ開発すべき野生の思考への誘いである。大地、動物、植物、太陽をめぐる彼らの思考は、人間が自然の一部であるという自明ではあるが余りにも忘却された真実を強烈に思い出させてくれる。筆者の対象との距離の取り方がとてもいい。そして小池桂一によるナバホ族創世神話の劇画は心の奥まですうっと入って来る。私たちは謙虚になるべきなのだ。