パウル・クレー展

 午後、竹橋の国立近代美術館でクレー展を見る。4月からの疲れがどっとでたのか、やたらとだるく、眠い...。今回の展覧会はクレーの創作過程にスポットをあてる趣向を凝らしていて、デッサンを転写して着色する技法、トリミングやコラージュなど画家が多用する手法がわかってなかなか興味深かった。そうした技法に着目しながら観賞して思ったのは、クレーは線描と色彩をしっかり分けて考えた人だなあということ。音楽への造詣も深く、タブロー自体が実に音楽的ともいえるけれど、音楽に例えれば線描はメロディ−的、色彩はそのメロディに陰影をつける和声のようなものに思える。繊細に震えるライン、限りない深みを湛える色彩の絶妙のグラデーション、そのふたつの要素をきっちり分けながら巧みに交差させて、クレーは人々を魅了する作品を量産した。その詩情はあくまで明晰でありながら深い。
 クレーは一番好きな画家だ。吸い込まれそうな海の深みを思わせるお馴染みの調子の『蛾の踊り』(1923)、ちょっと異色な『山のカーニヴァル』(1924)、2枚の絵ハガキを買った。ついでにOn the Road展も見る。昭和28年の銀座のストリートのパノラマ写真が面白かった。
 帰る途中、神保町のドトールでアイスコーヒーを飲んで一休み。屋外テーブルに座るとなんだかパリのカフェにいるみたいだ。台風の通過後、北から涼しい風が吹き抜けるいっぽうで、戻ってきた太陽が肌にじりじりと照りつける。そのコントラストが心地よい。