ル・クレジオ『氷山へ』

ミショーによる「氷山」「イニジ」というふたつの詩に敏感に反応したル・クレジオ散文詩的批評。それに共振する今福龍太と翻訳者中村隆之のテクスト。言葉の極北へむかう旅。コミュニケーションを拒絶する北の果てに屹立する沈黙の氷塊。極点へむけて人の営みから少しずつ離れてゆくクレジオによる「旅」の文章をトレースしていくうちに、ぼくらは虚飾をはぎとられ、物質となった始原のことばへと向かう。そのとき極寒の夜空にきらめく満天の星たちも地上にことばとなって落ちてくるのか。よぎるマラルメの影。しかしクレジオは西欧文明の領海から外にこぎ出していったのだ。読むべし。言語と旅への誘い。その誘いは野生といった生やさしいものですらない。生命から土、水、鉱物といった物質世界への架橋。言葉も物質なのだ。つぎは『物質的恍惚』を読もう。