Aotearoaにて

9月上旬に出張でニュージーランドを初めて訪れた。桜が散り始めた早春のダニーデンに4日ほど滞在。ダニーデンは南緯45度、稚内と同じ緯度に位置する。なんとすばらしい自然だろう。エニシダが黄色い花を咲かせ緩やかに波打つ丘陵を縫ってオタゴ半島を車で走っているとアイルランドを思い出す――もっともエニシダ外来種で牧草地を侵食するので農家には嫌われているそうだが。オロコヌイの見事な沼沢地、静まり返ったオタゴ湾、岬の突端に乱舞するカモメたち、のんびり昼寝するアザラシ。住宅地はまばらに点在し、17時を過ぎるとメインストリートの店は一斉に閉店。近代生活を送る人間が適度に自然に溶け込んでいる風景に、ほっとする。

 アオテアロア公用語は英語とマオリ語とニュージーランド手話。Otago Polyfest 2024というイベントを見学して、この国のマオリやさまざまな海洋民族のルーツへの敬意の深さを実感した。数日間にわたり、NZ全土から参加した160ほどの小中高校生たちや若者のグループによってマオリや太平洋地域の歌と踊りが披露されるフェスティヴァルなのだが、驚いたのは、ステージに立つ子供たちがマオリアイランダーだけではなく、白人もイスラムのスカーフを被った子供たちもいるということだ。つまり、子供たちは自分のルーツ・ミュージックを演ずるのではなく、エスニシティに関わりなく、伝統的な歌と踊りをみんなでシェアしているのだ。すばらしいではないか。1840年にイギリス人と先住民とのあいだで結ばれた一方的なワイタンギ条約からのNZの歩みを想像する。

オタゴ博物館を訪れたとき、ギャラリーで高校生の男声合唱団がPolyfestのために練習していた。NZに住むトンガやサモアやフィジーなど島嶼出身者たちだという。ゆったりしているが命のエネルギーが噴き出すような歌。この「太平洋合唱団」(勝手な命名です)をまとめていると思しき、杖をついた高齢の女性に、感動しました、すばらしいですね、と感想を述べたら、にっこり笑って楽屋の教室に案内してくれた。恐縮する僕を尻目に「この旅の方がみなさんの歌に心動かされたようですよ、短い歌を一曲歌ってあげましょう」と生徒たちに伝えると、彼らはなんと僕のために一曲歌ってくれた。おまけに生クリームのたっぷり入ったおやつのデニッシュまでもらった。忘れがたいハプニングとなった。

オタゴ大学そばの書店で本を3冊仕入れた。

Gerrgina Tuari Stewart, Māori Philosophy, 2021.  

Collins, Maori Phrasebook & Dictionary, 2006.   (1990初版以来定評があるらしい)

Katūīvei  Contemporary Pasifika Poetry from Aotearoa New Zealand, 2024

マオリと太平洋の詩学へむかって出発しようではないか。