Ayuo 色を塗られた鳥、時空を舞う

杉並公会堂小ホールは満員だった。すばらしいコンサートだった。前半は足立智美作曲、弦楽四重奏曲第42番――打楽器と声を伴う『蝶と猿とあくびする』。パヴェル・ハースに倣って、という副題がついている。浅学にしてパヴェル・ハースの音楽は聴いたことがない。聴いてみよう。打楽器とヴォイスがストリングスとブレンドする驚き。(ビオラが実に上手い!)立岩潤三さんのタルブカ(?)のリズムが音楽に生き生きしたドライブ感を与える。次の中村明一『月白』は尺八と弦楽四重奏曲。中村さんの信じられないサーキュラー・ブリージングの尺八のピアニッシモの持続音で音楽は始まる。最初はそれが尺八の音だとはわからなかった。尺八とストリングがなんと自然にブレンドすることだろう。これも驚き。音楽は時折ライヒのDifferent Trainsを彷彿とさせる。中村さんの尺八はジャズっぽい。

休息のあと、Ayuoの組曲『色を塗られた鳥、時空を舞う』。すばらしかった。コジンスキーの小説『異端の鳥』(読んでみよう)に基づく歌と室内楽。ストリングスに上野さんのヴォイスとアコーディオン高橋アキさんのピアノ、立岩さんのパーカッションにアユオさんの歌、英語朗読、ギターなどが加わる。売るために色を塗られてしまった鳥が帰る場所を失う、というエピソードをコアに、故郷喪失、放浪、差別、虐殺といったテーマを歌い語りつつユーラシア大陸の時空を自在に横断するスケールの大きなモノローグ・オペラ。イランの音楽が聞こえてきたり、ラップっぽくなったり、ときおりモスクのなかに連れていかれたり。まさに「全-世界」音楽。こんな音楽(劇)はAyuo以外には作れない。曲中にこんな一節がある。「どこに行ってもオマエは空気を読むことができない、オマエは理解していない、あなたは私たちの仲間ではない、と言われる」。このジプシーかユダヤ人かアジア人の少年は疎外されている。だが、この世界情勢不安・気候変動・コロナ状況のなかで、Ayuoの音楽はいまや時代と共振している。それを実感した一夜であった。「幻想が現実のように見えるとき、現実はただの空想になる」。