シルヴィー・ジェルマンの『マグヌス』を読んだ。久しぶりに心に深く響く読書だった。ナチス党員の夫婦に育てられ、やがて自分が彼らの本当の子供ではないことに気づき、強制収容所に勤務していた医師である育ての父を憎み、「自分の出自」というアイデンティティを探し続ける主人公マグヌスの人生遍歴。とりわけ印象深かったのが、すでに老境に差しかかり、恋人を失い希望を失くしてフランスのとある田舎に隠棲するマグヌスが、隠者ジャン士と出会う場面である。修道院から飛び出しミツバチを飼い森で暮らすそのアウトサイダーの老人は、マグヌスの心を暗く閉ざされていると批判する。マグヌスはその修道士崩れとの出会いによって、住んでいた納屋を出て、子供の頃から肌身離さなかった熊のぬいぐるみマグヌスを川に流し、再び旅に出る。その熊のぬいぐるみは、自分の出自と結びつく唯一の痕跡だったのだが、主人公はそれを捨てるところで物語は終わる。ただ主人公がカトリックに帰依したかどうかははっきりと書かれていない。いったいマグヌスはどこへ旅立つのか? それは読者の想像に任されている。ただ読者は、マグヌスとともに、「出自の探求」という幽閉された物語から一緒に白いページへと連れ出されることになる。そのオープンなエンディングがとてもよい。
  先週の金曜日、管啓次郎さん司会の作者を囲む会があり、でかけた。そのあとの食事会で彼女はゴロワーズを長いフィルターパイプに挿して吸っていた。すごくチャーミングで、気さくかつクールな方でした。
 本作はフランスで「高校生ゴンクール賞」に輝いたそうだが、日本の高校生にも推薦したいものだ。