荻原克哉氏の個展に行く。テンペラ画である。物憂げな表情の女性の半身が描かれている。その引き締まった表情の何たる豊饒さ。知性を誇る広い額。柔らかくまなじりを下げる眼は永遠のメランコリーを湛える。とりわけ強い意志を示す鼻筋に釘付けにされた視線はすぐにエロティックに薄く開いた唇へと導かれる。強烈に自己主張するそれらの要素がスリリングに危ういバランスをとりつつひとつの表情を形作っている。その表情は個別的な人格というよりも、むしろ人が追求するさまざまな理想と欲望が一人の顔として集約的に提示された形而上学的表現であるように僕には感じられた。
 画面の仕上げの入念さに、ずっしりとした時間の重さがにじみ出ている。仕事と創作を両立させている彼を見習いたいとつくづく思う。元気の出る個展でした。