先週の土曜日、アンリ・カルティエ=ブレッソン展に行く。5月に子供が生まれ、どこへも行けず家に閉じこもって過ごす夏。感覚の飢餓感が高まっているせいか、竹橋から北の丸公園の蝉時雨を聴きながらニ、三分炎天下を歩くだけで、強烈に夏を感じる。
  最終日の前日とあって東京国立近代美術館は大混雑だったが、非常に充実した写真展。ブレッソンは2004年に95歳で亡くなった。ともに国際写真家集団「マグナム」を立ち上げたロバート・キャパの作品に見られる報道性と対照的に、ブレッソンの作品には「芸術的」なポエジーが溢れている。2人を比べるとしたら、個人的にはブレッソンの方が好きだ。暑い夏の午後、彼の写真とともに「世界」を旅する。のんびりしたフランス・マルヌ川でのピクニック風景(1938)、デ・キリコのような神秘感漂うエーゲ海シフノス島の路地(1961)、丸メガネにキャップ、ガウンといったくつろいだ出立ちで鳩を描く風格溢れる晩年のマティス(1944)の3枚のカードを買って帰る。今日になって、J=L.ナンシー(安原伸一朗訳)によるブレッソン肖像画論が載っているカタログを買ってこなかったのがちょっと悔やまれた。