イヌイットの映画

ワールドシネマ研究会で『氷海の伝説』(The Fast Runner,2001)というイヌイット映画を見る。すばらしかった。
ひとつの閉ざされた共同体に起こった一人の女をめぐる二人の男の争い。主人公のアタナユグアト(速く走る者)は、オキの美しい許婚アートゥアを奪って結婚し、オキの恨みをかう。テントで寝ているときにオキの襲撃をうけ兄を殺され、自分も殺されそうになるが間一髪で裸のまま逃げて命拾いする。そこからの映像がすごい。素っ裸で人が何時間も氷原を走り続ける姿なんて想像もつかない。素足が血みどろになり死にかけたアタナユグアトは、別のイヌイットの老夫婦に助けられ、ひと夏そこで過ごしたあと、部落に戻り、悲嘆に暮れていたアートゥアに再会。アタナユグアトはオキに復讐するが殴るだけで殺さない。夜、シャーマンであるオキの祖母が、部族にとりついた悪霊払いをおこなったうえ、オキたちを部落から追放して172分の巨編は幕となる。
氷だけの世界にむき出しにされる人間の生々しい愛憎劇は、神話的叙事詩のスケール感を示している。
シェークスピアギリシャ悲劇、オデュッセイア、それに呪術的世界。カナダ北極圏の厳しく美しい自然とイヌイット語。
久しぶりにエネルギーをもらった。自然のエネルギーは映画を通じても伝わるのだ。