いこかアメリカ帰ろかニホン

 管さんに誘われて草月ホールに出かける。「日本の声・日本の音」と銘打たれた今年の〈東京の夏音楽祭〉、今晩のプログラムはハワイ日系移民たちのあいだで歌い継がれた「ホレホレ節」をコアとしたレクチャー&コンサートである。ハワイ大学エスニック研究に長く携わったフランクリン王堂氏のレクチャーに続いて、日系4世の美貌の歌手アリソン・アラカワさんがさとうきび畑の労働スタイルで登場し「ホレホレ」節を披露。「ホレホレ」とはさとうきびの茎から枯葉をむしりとる作業を指す。辛い労働を慰めるワークソングはお座敷でも歌われるようになり、研究者に記録されることになった。「いこかアメリカかえろかニホンここが思案のハワイ国」と始まるノスタルジックなメロディにじんとくる。2000年の「NHKのど自慢インハワイ」で優勝した彼女の歌はめちゃめちゃ旨い。聴きながらカリブ海のサトウキビ畑プランテーションの黒人たちの姿を思い浮かべた。グリッサンならば、それこそが「関係」なんだよとにやりとするだろう。
 次は琉球民謡の大工哲弘さんのステージ。これも実によかった。民謡をオリジナルなスタイルでうたうのではなく、バックにギター、キーボード、ブラジル・パーカッションを従えたパフォーマンス。久保田麻琴さんのギターのブルージーで不思議なからみが印象的。
 ここまででも充実の夜だったが、最後にとんでもない9ピースのバンドが現れた。ソウル・フラワー・モノノケ・サミットは1995年阪神淡路大震災をきっかけに誕生したソウル・フラワー・ユニオンの別働ユニット。リズム隊にちんどん太鼓が入っていて民謡、労働歌、革命歌、壮士演歌などが次から次へと繰り出される。そのパワーは圧倒的だが、同時に細部までコントロールが実に行き届いた音づくりだ。上々颱風や惜しくも解散したGNAWA DIFFUSIONを思い出した。最後に大工さんアリソン・アラカワさんも舞台にあらわれて「ホレホレ節」、アンコールがインターナショナルで締めくくられたのには恐れ入った。ああ、こういう元気なオルタナティヴ・ロック(という呼び方は好きじゃないけど)があるんだ、日本もまだまだ捨てたものじゃないな。海へ、島へ、南へ、ボーダーを超えた想像力の連帯へ...「クレオール文化観」がここ20年ほど打ち出してきた世界への眼差しが凝縮された一夜だったように思えた。それにしても〈東京の夏〉が今年でクローズとはさびしい限りだ。
 元気をいっぱいもらったあと近くのインド料理屋で菅さん、小沼さん、ロレンス研究の三宅さんとビールを飲む。おいしいカレーだったが、このところ昼夜カレーが続いたせいか翌日にお腹を壊した。情けない...。