WALKING & 西江雅之レクチャー

  生田の山にWALKING展を見に行った。山と歩行をめぐる本たちの展示とインスタレーション管啓次郎の詩文と佐々木愛のイラストレーションは息があっていて素敵だ。それを見ながら、詩集って手稿のまま出版するべきじゃなかろうか、と思った。透明なコミュニケーション・ツールから離れて「もの」に近くに居ることばたちのありようは、それによっていっそう強調されるだろう。そこでは字は読みとられるものであると同時に、観賞されるものとなる。それにしても、なんと魅力的な本たちのコレクションだろう。もっと若い時にこうした強烈な自然への姿勢を示す文学的アクションに出会っていたなら、おそらく自分の方向は変わっていただろうな。Andy Goldworthyとの久しぶりの再会。冬休みにもう一度見にこよう。
  展覧会のあといよいよ西江雅之さんのレクチャー。ついにリビング・レジェンドとの邂逅。今まで何度もチャンスを逃し口惜しい思いが募っていただけに感無量である。日本におけるアフリカやカリブ海の先駆的文化人類学者・言語学者の物腰は驚くほど謙虚だった。最近なさった旅についてのお話で、そのいくつかは『異郷日記』(2008年、青土社)にも書かれている。くだけた口調だが視線は鋭い。冒頭の「歩く・走る・這う」の違いを説明される手つきは、弁別特徴によって現象に切り込む言語学者のそれである。冒険的な旅を重ねてきた先生に、生き延びるコツは、と尋ねたら「無責任であること」と答えが返ってきた。含蓄が深いことばだった。