横浜中華街にて

 『異郷日記』で媽祖信仰を知った。北宋時代、官僚であった林氏の娘、黙娘(もうにゃん)、のちの媽祖は、生後1カ月泣き声を上げることなかったが、その後さまざまな奇蹟を行い神格化された。道教の系譜に入る中国の民間宗教であり、中国、台湾ならびに華僑のさまざまなコミュニティで信仰されている。最近横浜にも媽祖廟が建てられたと『日記』に書かれてあったので調べてみると2006年。何となく興味をそそられて、家族を連れて車で出かけてみた。絢爛豪華なお寺の内部には堂々たる天上聖母が鎮座していた。本来は海難から守ってくれる海神だが、家内安全・心願成就・商売繁盛・・・ご利益の幅は実に広い。媽祖とともにさまざまな神様が祭られていたが、そのネーミングは中国語も漢文の素養もない自分にとっては、ただただ面白い。情報収集係の「順風耳」と「千里眼」は聖母の家来。縁結びの神様「月下老人」。このへんはまだいいが、安産の神様は「臨水夫人」。なんだかすごい。
 極彩色の霊廟訪問のあとは、隣接する公園でまたしても子守を仰せつかる。所せましと走り回り、誰とでも片っ端から友達になろうとする息子を監視しつつ、ベンチで『異郷日記』の残りを読んだ。
 そういえば、このところさまざまな宗教施設を訪れた。先週の日曜はたしか杉並の妙法寺の境内で読経と鐘の音を聴きながら息子と海苔巻を食べた。おとといは目黒のカトリック教会でイエス・キリストの誕生を祝った。息子は混乱し、ミサの途中に「ゴーン」「南無南無」とつぶやくので、それはちがうんだよと説明した。あちこちのホーリー・プレイスを訪れるのは節操がないのかもしれない。でも、それらの場所には等しく神への人の想いのエネルギーが満ちている。それらに対して開かれた気持、人知を超えるものに対する謙虚さをもっていたい。
 夕方、NeNe CaFeで一休みして帰る。息子は遊び疲れてベンチシートで眠ってしまった。冷え切った身体にベトナムコーヒーが浸み込んだ。