光の帝国

午後、休暇を取り駒場図書館で翻訳を続ける。台風が過ぎた後の強烈な陽光が、台風のおかげですっかりきれいになった大気を貫いて眩しく室内に差し込む。窓辺の学生があわててカーテンを引く。しばらくすると、席の左手上方に広がる窓の外に、透明感あふれる稀有な夕暮れが降りてきた。消えてゆく茜色に夜の青がにじみ始める空の色と、前面の林のすでに夜の色に沈むシルエットのコントラストにはっとする。マグリットの『光の帝国』を思い出す。自然の美に不意打ちされるときほど生気が蘇る契機となるものはない。すっかり夜になったころ、湿った木の葉を踏みしめて、その心地よい香りを吸いこみながら北の門を出て、しばらく山手通りを歩いてどこかのバス停からバスに乗って家に帰った。