グリッサン追悼3

 institut du tout-mondeの掲示によれば、フランス時間の今日、グリッサンはマルティニク島のディアマンに埋葬される。norah-mさんがアップしてくれた写真を見ると、まるでsel noirの詩人がその土の下に眠っているようだ。もういちどあの島を訪れる機会はあるだろうか。
http://d.hatena.ne.jp/norah-m/20110208
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 グアドループ出身の作家エルネスト・ペパンによる、共感に満ちグリッサンの巨人的な歩みの可能性の中心をみごとに掬いあげたた追悼文を読む。島に根を下ろすための「基礎固め」の時期、「アンティユ性」の時期、そして「全−世界」へ向かった時期、しかしそれらは断絶ではなく一続きの流れのなかにある。グリッサンのディスクールの核心には「クレオール化」という不断の生成の哲学がある。それはあらゆる事象を固定的視点ではなく流動的、混交的なカオスの相においてとらえようとするものの見方である。その視線はカリブ海から「世界」へと射程を延ばしていった。
 ネグリチュードの後を継いだグリッサンの仕事には、ヨーロッパに内在するヨーロッパへの異議申し立てを見つめる考察があった。ランボーブルトンアルトーセガレン...初期の重要な評論集『詩的意図』で論じられたこれらの詩人を射程に入れながらグリッサンは自らの詩学の土台を築いた。そして自らの語りにフォークナーを接ぎ木していった。エルネスト・ペパンが言うように、グリッサンは21世紀を照らす基本的な思想家の一人である。
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中村隆之くんが伝えてくれたグリッサンの言葉。
Rien n'est vrai, tout est vivant.
自らの励ましのことばとしよう。