ジプシー音楽の夜

 タラフ・ドゥ・ハイドゥークスとコチャニ・オーケスターのジョイントコンサートを聴くべく錦糸町すみだトリフォニーホールに向かう。台風17号接近のさなか、無事に帰れるかどうかスリリングな夜だった。両方とも生で聴くのははじめてである。結成20周年で日本にも何度も来日しているタラフはバイオリン、アコーディオン、笛、ツィンバロンなどで構成されたルーマニアのグループ。一方コチャニはマケドニアブラスバンド。音量もスタイルもちがうふたつの音楽がこんな大ホールで共演できるのはアンプリファイ技術のおかげである。ある意味で非常に人工的な基盤のうえに成立する「地場」音楽というパラドクシカルな音楽会。しかし内容は見事の一言に尽きる。特に第1部最後のオーケストラ全体が奏でる哀愁のリフが圧巻だった。生きることの悲しさと重さ、いのちの意味と輝きが痛切に伝わって来る。まさにジプシー・ミュージックのエッセンス...。タラフを初めて知ったのはガトリフの『ラッチョ・ドローム』(1993)だった。コチャニのほうは知らなかったが、バルカンのブラスバンドといえばマルシャレフの『炎のジプシー・ブラス』(2004)のファンファーレ・チォカリーアが記憶に新しい。『ジプシー・キャラバン』というのもあったな。コンサートの前にロビーで演ってた日本のジプシー・テイストのバンド(??)チャラン・ポ・ランタンとピラミッドスも最高の乗りで楽しかった。