崖線(はけ)を歩く

 気温が37℃あたりまで跳ね上がった灼熱の午後。引越し先を探してここ数カ月小金井や国分寺あたりを彷徨する日々が続く。今日は物件チェックもかねて小金井市国分寺崖線を歩いた。崖線(がいせん)は武蔵野方言ではなまって「はけ」と呼ばれる。野川の北に東西にのびる高低差20mほどの河岸段丘面。湧水と緑豊かな武蔵野台地の一角である。JR小金井駅から南東にある「はけの森美術館」に車を止める。大正から昭和にかけて活躍した官展系の洋画家、中村研一(1895-1967)の作品を収蔵する小さな美術館だ。しっかりしたデッサンとマチスをリアリズムに近づけたような作風。藤田嗣治らとともに戦争画も描いた。見始めたとたんにすさまじい雷雨となり一時館内が停電。息子はけっこう雷が苦手で縮みあがっている。裏手にある洒落たカフェで一休みしているあいだに雨が上がり、さっきまでの熱気がうそのようにひいていった。「はけの道」と称された散歩道を歩く。途中『借りぐらしのアリエッティ』の舞台だという「はけの小道」にさしかかると、辺り一帯果樹や畑や林。見上げても視界は何の人工物にも遮られない。ただただ一面の緑に包まれた。とても東京とは思えない。夏休みの夕暮れ、すてきな散歩を楽しんだ。