虫たちとの出会い

 今回の旅の目的地のひとつは、北海道の大学で植物生態学を教える弟が趣味と研究を兼ねて大雪山の西側、東川町の山林の一画に建てた山小屋である。廃屋を改修してつくられたその小屋はミズナラとカラマツの林の斜面にあった。電気は来ているがガスはなく、炊事はカセットコンロ、風呂は薪の風呂釜。忠別湖(ダム湖)から流木がただで手に入るんだよ、と弟は笑う。水は電気ポンプで地下水をくみ上げている。東川町の住民はみな地下水を利用しているので水道施設がないのだそうだ。自分で薪を割るところから始まり半日がかりで沸かす風呂に浸かるのは最高である。お湯がとても柔らかいので驚く。ここを拠点に層雲峡から黒岳に登ったり、裏手の林を散歩したり、近くのファームを訪れたり、のんびりとした山暮らしを8月19日から4日ほど送ったが、小さなドラマもあった。それは玄関に散らばる無数のハチの屍である。大きいのはスズメバチ、小さいのはニホンミツバチだと弟に教えられた。玄関から上を見上げるとハチの巣がある。それはニホンミツバチの巣なのだが、それを狙ってスズメバチがやって来る。大きな敵を倒すためにどうするか。ミツバチたちは集団でスズメバチにしがみつき、体温を上昇させてスズメバチを蒸し殺す。しかしミツバチたちも力尽きる。玄関のタタキに散乱していたのはその格闘のあとだったのだ。それから小屋のなかには先住者であるカマドウマたちが住んでいたのだが、風呂釜をねぐらとしていた奴らは僕が風呂を沸かしたためにあえない最期を遂げた。なんだか申し訳なかった。