串田孫一との再会

 旅の最後に白老ポロトコタンを訪れた(8/24)。アイヌ民族博物館を見学し、チセでアイヌ古式舞踊を観た。2011年の夏には阿寒のコタンで観たが、今回はトンコリの演奏に接することができて貴重だった。白老はすばらしいが、個人的には阿寒のコタンもそれに負けずに印象が深い。そこには生活の現場があったからだ。
 見学を終えて土産物屋を覘いていると、一冊の本が目にとまった。串田孫一『北海道の旅』(平凡社ライブラリー)。これは知らなかった。すかさず買い求め、ポロト湖の向かいから吹いてくる午後の心地よい風を受けながら湖畔の芝生に寝転んで読み始めた。1962年の5月中旬から15日間の北海道の山旅の記録である。スケッチブックに絵を描き手紙を書きながらの偶然出会った青年との二人旅。ぼくは串田孫一のファンなのだが、この本はいつものエッセイとはやや趣を異にしていた。一言で言えば、串田孫一の生の声が聞こえてくるのだ。山のなかの自衛隊訓練に憤り、修学旅行の高校生に眉をひそめ、観光地の風俗をすり抜ける。食べ物への執着がなかったり、アイヌにはあまり関心がなさそうだったり、今まで知らなかったエッセイストの素顔にふれたようで面白かった。旅先で思いもかけない本と出会うのは楽しいものだ。ふと、大学1年のときに出たが読まないままに通り過ぎた『思索の階段』という本を思い出し、読みたくなった。