多桑/父さん

ちょっと遅刻して中野でWC研。温又柔さんのナビで台湾映画を観る。ウー・ニェンツェン監督の『多桑/父さん』(1994年)。日本統治下の台湾に育った鉱夫セガ日本語教育を受け日本に憧憬を感じて育った時代である。20世紀の台湾の人々の暮らしの変化が見て取れた。1945年台湾は日本に置き去りにされた。中国政府のエネルギー政策の転換によって鉱夫たちは置き去りにされ、セガの妻はセガに「置き去り」にされた。幾重にも折り重なる置き去りの堆積として物語は進行する。しかしドラマは決定的な悲劇へと傾斜せずに踏みとどまっているようにも思えた。それはセガを語る息子ブンケンの語り口と家族の存在によるのだろうか。20世紀台湾の時間の流れを、この映画を観ることで少しだけ勉強できた。炭鉱夫のゆえに肺を病み、苦しそうに呼吸するセガの病室のシーンは、間質性肺炎で死んだ父の最後の日々が思い出されてつらかった。それにしても最近ノヴァーリスの『青い花』を読んだばかり。ノヴァーリスには鉱物への詩的まなざしがあふれているのだが、今回炭鉱もののフィルムだったのでちょっとした偶然だったな。