原宏之『ラプサンスーチョンと島とねこ』(書肆水月)

慈しみに満ちた本を読んだ。「ひとりで居るのは嫌いだった。ふたりでもぱっとしない。家族三人がみんな揃って居るのが好きだった。三年前、不調となりその後衰えて居間ではほとんど寝ているばかりとなってからも、わたしと妻が楽しそうに団欒していると、満足して自分も幸福であるかのような様子であった。全員が一緒であることを好んだ。」(p.44)あたりまえのことだが、慈しみは単独の個体において発生しえない。慈しみは個体の閾を超える交感であり、関係であり、ゆったりと広がる波動である。そしてきっと慈しみの領域にある個体たちはラランジャであってくるくると入れ替わっているのだ。大さん、中さん、へいくろう。三匹の生き物は慈しみのなかに穏やかに揺れている。