風邪はだいぶよくなった。昼前に東京医大にホルターを返し、電極緊縛から逃れてせいせいして西新宿から南新宿まで歩く。曇り空、わずかに風もあって死ぬほどの暑さでもない。歩いたことのない道を選んで散歩するのはささやかな喜びだ。そういえば日本のオタク文化好きのフランス人の知人が中野ブロードウェイを絶賛していたのを思い出した。一緒にざるそばを食いながら、1本路地を入るだけでまったく違う店に出会うほんとにエキサイティングなカルチエだね、ここに住みたいね、とゲットしたゴジラのフィギュアを自慢げに見せながら熱く語る彼だったが、果敢に挑戦した谷中生姜にあえなく敗退し、口に生姜を頬張ったまま苦悩の表情でテーブルに突っ伏したのだった。
 ちょっとうらぶれた雰囲気が大好きな南新宿から小田急で下北沢に出て、行きつけの床屋で散髪し、さっぱりして「やじるし」でつけ麺を食う。ここが下北で一番旨いラーメン屋だと思う。永福町まで足を延ばし、図書館でセルトーの『日常的実践のポイエティック』を借りて帰る。いよいよ8月。夏も真っ只中だ。