『トンブクトゥのウッドストック』を観る

昨日は仕事のあと、はるばる渋谷への旅。ユーロスペースで楽しみにしていた「イスラーム映画祭」、『トンブクトゥウッドストック』(2013年、デズィレ・フォン・トロタ監督、ドイツ、90分)に滑り込みで間に合う。マリで開催された音楽祭「砂漠のフェスティヴァル」の記録。マリ、アルジェリアリビア、ナイジェリア、ブルキナファソといったサハラ砂漠に生きるベルベル系の遊牧民トゥアレグ族が自らの文化的アイデンティティを示す、という視点で撮られていた。伝統的な打楽器にエレキギターやドラムスが配される構成で、リフの上に叙事詩的な歌詞が乗る。想像していたより大人しい印象の音楽。2006年7月草月ホールの「トゥアレグ族の伝統音楽」を思い出した。あのときはすごく盛り上がって最後はステージで踊りまくったっけ。作品としてはもう少し音楽自体に接近し歴史につっこんでもらいたかったな。(今年の初めにUPLINXでトゥアレグ族のバンド「TOUMAST」を追ったフィルムが上映されていたが見逃した。)インタビューされるトゥアレグ族の人々はみな流暢なフランス語を話していた。女系社会といわれるが、たしかに女性の権利についての発言が多かった。しかしその発言が浮上する社会状況の説明がないのでちょっと唐突な感じもする。トゥアレグ族は自らをケル・タマシェクKel Tamasheq(タマシェク語を話す人)と呼び、ティフィナグ文字という表音文字をもつ。映画のなかで「タマシェク」の語源とその意味の変遷、元の意味の消失について語られていたところが面白かった。詳細を記憶できなかったが、こうした言葉の流動と変転の様はグリッサンだったらきっと自らの詩学に取り込むだろう。フィルムは2011年の音楽祭を撮影したものだが、2012年マリ北部紛争が起こる。トゥアレグ族武装蜂起に端を発するといわれるが、その後イスラム原理主義勢力が進出する。現在は音楽祭のメンバーを含む多くの人々が難民となっているという…。フランス植民地から領土国家システムにはめ込まれたノマドの民の苦難を思う。
 映画のあと、久しぶりに森本ののれんをくぐる。入口が自動ドアになっているのに驚いた。