ケベック詩選集(立花英裕他編訳、彩流社)

詩を読むことは旅をすることだ。19世紀後半から21世紀の現在まで時代の流れに沿って紹介される36人の詩人のことばの断片を追いながら、2001年の夏に訪れたケベック・シティを思い出した。ページを繰るたびにフランスとはまったくちがったカナダ東部の自然や荒野の風景が広がる。木々の梢のあいだから雪空を仰ぐような表紙も素敵だ。だがここにあるのは自然賛美だけではない。本書の底本の著者、ピエール・ヌヴーの序文は次のように始まる。「北米におけるフランス語表現によるケベック文学の存在そのものが、歴史と入植活動の定説に抗うものであると言えるだろう。」英語系住民との社会・経済格差を生きてきたカナダのフランス語系住民の苦悩がにじむ作品も多い。

1960年にケベック州政府によって開始される「静かな革命」の時期に注目されたミシェル・ラロンドの「スピーク・ホワイト」は英語とフランス語で構成される英語系カナダ人への皮肉に満ちたプロテストである。

Speak white

il est si beau de vous entendre

....

nous sommes un peuple peu brilliant

mais fort capable d'apprécier

...

mais quand vous really speak white

quand vous get down to brass tacks

...

nousはフランス語話者のケベックの民、vousは英語話者のカナダ人である。私たちをバカにしないで。あんたたちが肝心なことを私たちにわからないように英語でしゃべっても、実はちゃんとわかってるのよ、と彼女は語る。speak white「白人のように話せ」とは公共の場でフランス語が話されると英語話者から飛んでくる野次の言葉なのだそうだ(p.195)。フランス語は「黒人=非文明」の言葉なのか。ここには二重の差別が露呈している。

印象に残った何人かの詩人。堂々たるケベック詩の巨人ガストン・ミロン。先住民詩人ルイ=カルル・ピカール=シウイ、ナタシャ・カナペ・フォンテーヌのことばは喪失と再生への怒りのエネルギーを放射する。

マドレーヌ・ガニョンやエレーヌ・ドリオンのささやきは静謐な形象。そうか、久しぶりにアルヴォ・ペルトを聴こうか…。