エメ・セゼール『ニグロとして生きる』

エメ・セゼールについての貴重な文献を読了する。3部構成で、第1部はフランソワーズ・ヴェルジェスによるセゼール晩年(2004年)のインタビュー。詩人として、政治家として、植民地主義と戦いつつ海外県という現実を引き受けて生きたセゼールが自身の生涯をふり返り、ハイチ独立を扱った戯曲『クリストフ王の悲劇』や最後の詩集『私、海藻...』を引用しつつ自身の思想と心情を語る貴重なドキュメント。第2部はヴェルジェスによるセゼール小論。ネグリチュードというよりポストコロニアルの視点からセゼールを捉えようとする。英語圏で先行した「ポストコロニアル批評」の射程をコンパクトにまとめたフランス語圏からの応答。ポストコロニアル批評を理解するための格好の入門テクストともなっている。第3部は、1956年にパリで開かれた第1回黒人作家・芸術家国際会議での「文化と植民地支配」と題されたセゼールの重要な講演テクスト。植民地状況を生きる民の水平的連帯とアフリカ文明につながる垂直的連帯を説き、民族は政治的主体にならずして文化の発展はないと主張し、黒人の歴史への配慮を求めるセゼールの基本的姿勢が凝縮したテクストである。本書を読むと、「黒人性」をめぐってセゼールとファノンはどういった立場の差異を示したのか、その演説をその場で聴いていたグリッサンがセゼールの主張をどう受け止めて自らの思想を育んでいったか、などさまざまな発見があり、問いが立ち上がる。セゼールやカリブ海のみならず、21世紀の文化論に関心のある人にも必読の文献である。