管啓次郎『本は読めないものだから心配するな』

エドゥアール・グリッサンからエイミー・ベンダーまで多くの翻訳を手がけてきた筆者の最新エッセイ集。強力である。さまざまな旅、読書、翻訳、教師としての経験を通じて筆者が語り続けるのは「文をつくること」と「文を読むこと」の根源的な意味である。世界を歩くこと=読むこと=書くこと=生きること。管啓次郎という稀有の文学的野生にあって、読書は常に読者を世界に開いていく「実用的」な行為である。「実用的」とは何かの目的に功利的に役立つということではない。一冊の本がひとつの風景とつながり、またそれは他の本や場所へとつながっていく。その過程は、自分の足でヤブに覆われた踏み跡を辿るようなものであり、その行為のなかで生きることの意味に気づかされる。それが「読書の実用論」である。書をもって野に出よう。