ヘンリー・ジェイムス『ねじの回転』

 文学研究に舵を切った若者とのメールのやりとりがひょんなきっかけとなって、Stream of consciousnessの先駆者ヘンリー・ジェイムスの『ねじの回転』(1898年)を読み直した。苦労して整頓を終えた本棚の片隅から取り出した古びた新潮文庫(蕗沢忠枝訳)の裏表紙には1982年11月27日読了と鉛筆で走り書きがある。30年ぶりの再読。面白かった。サセックスの田舎屋敷に派遣された若い女家庭教師は自分に任された二人の幼い兄妹がかつてこの屋敷に出入りしていた人間の亡霊に取りつかれていることに気づく。物語が進行するにつれて緊張が高まる家庭教師と子供たちとの駆け引き。相手の心と秘密を読んでいることを相手に知らせること、それが最終兵器である。シューベルトの『魔王』のようなドラマティックな幕が待っている。読みながらホーソンの『緋文字』を思い出す。アメリカ生まれでイギリスに帰化したヘンリー・ジェイムス。言うまでもなく兄はプラグマティズムの哲学者ウィリアム・ジェイムスだが、どうも兄を読み直す気にはなれないな。ピューリタニズムとの葛藤、精神分析的アプローチ、いろいろな批評が可能なのだろう。まあそれはさておき、夏は怪談に限る。(7/23記)