ディアンジェロと『聖地Cs』

 クリスマスの前後はリヒターの『マタイ』や『クリスマス・オラトリオ』を聴いてクラシック・モードだったが年が明けて選曲一新。アマゾンでジャケ買いしたD'Angeloの新譜Black MessiahとキースのHamburg'72を繰り返し聞きながら、家の窓を掃除し、木村友祐『聖地Cs』を読了。がつんときた。
 「聖地Cs」。被ばくした牛たちを飼い続ける浪江町の牧場。その場所に残り続け、叫び続けるのは自虐なのか?「種ができれば」。「生きのびよう、いっしょに」。語り部は事件を語る。「希望の砦」は、それを存続させようとするアクションによって語り、種を撒く。忘却と都合のよい復興神話への抵抗。読書もまた。
 「猫の香箱を死守する党」。非正規雇用をめぐるせつない猫小説(なんだかさっぱりわからないな、このフレーズ)。勤め先が倒産したあとビルの貨物用エレベーター係として働く「おれ」はアパートで飼う猫に癒され野良猫たちに餌をやりながら猫たちの生きざまから「自分から心を開いて働きかければ世界は思った以上に打ちとけて応えてくれる」と悟るところで話は終わらないのだ。ふたつの物語はオープンエンド。あとは読者がどうするかを引き受けなければならないだろう。インゴルド『ラインズ』のstory→lifeのイラスト(p.145)を思い出す。
 ダンジェロは初めてだけどいいねえ。ジャズファンとしては何と言ってもロイ・ハーグローブ(tp)の参加が気になるのだけど、サウンドの一部として溶け込んでました。5曲目Really Loveからあとが好みかな。9曲目のBetray My Heartは4小節のテーマのループだけどこれってYou'd be so nice...のアタマかい? キースのハンブルグは凄すぎるのでまた後日。今年は少し生産的にいきたいものだ。