マリーズ・コンデへのオマージュ

 義父の葬儀を終えて、18時恵比寿日仏会館に滑り込みで間に合った。三浦信孝×管啓次郎×大辻都という豪華キャストの講演会。昨年スキャンダルで中止となったノーベル文学賞代替のニューアカデミー文学賞を受賞したグアドループの女性作家マリーズ・コンデへのオマージュである。東京でお会いしたことのあるFrançoise Vergèsさんの脚本、Jérôme Sesquin監督による50分のドキュメンタリー・フィルムMaryse Condé, une voix singulière(2011)を観てからディスカッション。前から見ようと思って作品だが、こういう環境でじっくり鑑賞できたのはありがたかった。そして3人のお話しから作家コンデの凄みを再確認した。やや観念的なグリッサン・ワールドに対してコンデの小説世界にはアフリカ人との最初の結婚をはじめ、アフリカ、カリブ海、フランス、アメリカを股にかけたさすらいの実人生のリアリティがより強く反映されていると言えるだろう。アラブ、イスラムについての主題も創作に織り込まれているようだ。伝統料理ではなく創作料理が得意というエピソードは非常に興味深かった。大いなる単独の渡りを紡ぐ文学者マリーズ・コンデを再読しよう。今まで読んだのは管啓次郎訳の『生命の樹』、くぼたのぞみ訳『心は泣いたり笑ったり』、風呂本・西井訳『私はティチューバ』、かつて管先生のゼミで読んだTraversée de la mangrove、くらいか。Les derniers rois mageを途中でやめてしまったのでもう一度チャレンジしよう。Madeleine Cottenet-HageとのPenser la créolitéもあったな。最近の料理をテーマとした作品も面白そうだ。家に帰ってから三浦先生編訳の『越境するクレオール』をもう一度開いた。

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会場で松井裕史さんからゾベルの『黒人小屋通り』を、また中村隆之さんから『ダヴィッド・ジョップ詩集』を頂いた。どちらも画期的な訳業である。しっかり読んで感想を書かせていただきます。最近講演会に出かけるたびすばらしい本を頂戴し、まるでわらしべ長者になっていくようだ。