昨日は「スイス=ブラジル1924――ブレーズ・サンドラール、詩と友情」に行って来た。直前に、19世紀前半にスイスからアメリカに渡り、カリフォルニアで大農業帝国を築いたヨハン・アウグスト・サッターを題材にした小説『黄金』(生田耕作訳)を読んだ。これが滅法面白い。サッターの帝国は、降って湧いたゴールド・ラッシュに見舞われる。使用人たちは仕事を放り出して砂金堀リに眼の色を変え、押し寄せる人間たちに領土は踏みにじられる。前半はヨーロッパから新大陸に渡る冒険家の旅を、後半は「金」に翻弄されるユートピアの崩壊を味わわせてくれる。この作品は1925年、作家のブラジル滞在中に出版されたが、彼の小説にはどれも旅人サンドラールの人生が刷り込まれているという。すかさず『世界の果てまで連れてって』を読み始めた。
 シンポジウムでは山口昌男、今福龍太、管啓次郎の「旅語り学3巨匠」が揃い踏みする姿が壮観であった。ちょっとほつれの見える老マエストロのトークをしっかり支える今福さんの姿に、最晩年のマイルス・デイヴィスが一度だけ後ろを振り返り過去の自分の曲を演奏することに同意したとあるコンサートで、時として譜面から落ちてしまうマイルスの傍に寄り添ってサポートするジョン・ファディスをふと思い出した。会場では管さん翻訳のサンドラールの詩やサンドラールについてのパネラーによるエッセイが掲載された冊子が売られていたので買う。シンメトリーも天地もない素敵なレイアウト。和紙に綴じられた紙片が凧糸で縛られた不思議な体裁。なんといってもタイプ打ちや手書き文字なのがいい。これもまたひとつの「世界語り」の鮮烈な姿勢なのですね。(ただ保存に困る...。)高橋悠治さんのミヨーとヴィラ・ロボスを聴けたのもすごかった。ピアノの音がやや湿っていたように聞こえたのは会場と台風のせいだから仕方ない。最後にロビーでスイスワインとチーズが振舞われた。文句なし。

 Blaise Cendrarsというペン・ネームは燠braise・灰cendre・芸術artという3つの単語からできている。僕にとってBlaiseといえばBlaise Pascalパスカルも、焔を秘めていた。