バレンボイムのベートーベン

  昨日、やれやれ一週間が終わったと帰宅したら、息子がインフルエンザにかかっていた。タミフルを処方されていてちょっと緊張する。40度近く発熱し、一晩中汗をびっしょりかき何度も目を覚まし泣いた。今日になってやや容体は落ち着き、ほっと一息。夕方、ひとりで散歩にでかけた。寒々とした曇り空の街を中野坂上に向かう。小一時間歩くとすっかり冷え切ってしまうが、暖房と加湿器でうだるような室内でぼーっとした身体がすっきり目覚める。ときおり雪がちらついたような気がした。夜、とてもいいから是非聞いてほしいと1週間前に生徒から手渡された、ダニエル・バレンボイムの弾くベートーベンのDVDをようやく視聴し終える。第1番、2番、10番、17番、18番、26番、29番。7曲3時間に及ぶライブ映像。今日は大曲29番「ハンマークラビーア」を気合を入れて聞いた。40分もかかるソナタなんて、まったく正気の沙汰ではない。バレンボイムのピアノは情熱的で音楽が生き生きとしている。指揮者の経験が長いだけに、非常にスケールが大きい。2番の1楽章、18番のスケルツォ(2楽章だっけ)、それに「ハンマークラビーア」のあのピアノ音楽の枠におさまらない3楽章など印象に残った。ただ欲をいえば、フレーズにもう少し粘りがほしい。それにしても、最近はこうしたリズムやフレージングが自由に伸縮し呼吸する演奏スタイルが主流になりつつあるのだろうか。ふと高橋悠治さんの「ゴルドベルク」をふと思い出した。(レベルは全然違うが。)機械のような均一でイン・テンポでなめらかな演奏がよしとされた時代は過ぎ去りつつあるのだろうか。それはあたらしい美的感覚の到来を告げるしるしなのだろうか。