ブルース2編

 2月11日(木)。市ヶ谷の自治労会館へ。フォーラム平和・人権・環境主催の「建国記念の日」を考える集会に参加する。講師の一人、在日2世として奈良の被差別部落に生まれ波乱の人生をキリスト教の信仰によって乗り切り2001年新宿に高麗博物館を開設するに至った宋冨子さんの69才とは思えないエネルギッシュなトーク、行動力、はつらつとした美貌に心を動かされる。朝鮮半島と日本は文化同根。そうした余りにも基本的な発想が浸透し、新しい想像力とコミュニケーションの通路が拓かれていくのはいつのことなのだろう...。6月に新大久保にオープンする文化センター・アリランに足を運ぼうと思った。
 2月13日(土)。小雪舞う寒い午後。仙川のKICK BACK CAFEへ。重森三果の三味線と唄+中村善郎ボサノヴァ・ギターとヴォーカルによる『望郷センチメントス』。1908年第1回ブラジル移民としてブラジルに移住した一人の女性の人生を、細川周平さんのブラジル研究に触発されて重森さんがフィクションとして歌い語りに仕上げた作品。苛酷な労働や望郷の念が切々と語られる。日本人が日系移民の物語を語るという構えは無論ひとつの倒錯である。しかしその虚構は、音楽の力強い援助を得て、移民という生の在り方へと僕らを運んでいく。それにしても中村善郎さんのボサはすばらしい! 1曲目のデザフィナードが始まった途端、ゲッツ&ジルベルトの世界だった。
                             ★ 
 世界のひとつひとつの場所のブルースはつながっていくのだろう。そこに新しい想像力の風景がひらけるのだろうか。
 「人間の歴史のなかで更新されていく世界は、私たちにとって夢とか手の届かぬ遠い存在ではない。計画の対象でも完遂されるべき征服の対象でもない。今後、世界とは、ひとつの苦しみ、解消を待つ苦しみ、私たち全員にとっての苦しみとして在るだろう。私たちの仕事は、いたるところで、つまり「どこであろうと」ici-làや「いつであろうと」là-dans、その苦しみを昇華させることである。それは窒息に至るかもしれない。また反対に、解き放たれた息吹となるかもしれない。苦しみは、絶対的多様性のなかで、解き放たれた息吹となることができる。その息吹とはすなわち、芸術であり、ただ度外れたものであり、自由である。...」(エドゥアール・グリッサン『ラマンタン湾』p.33-34)