原宏之『世直し教養論』

教養は閑暇なくしては身につけることができない。だがそれは単なる知の楽しみ、博識、人格陶冶といったものを意味してはいない。本書が提起する「教養」の射程とは、世界・社会の情勢を判断するための情報を適切なリテラシーで解釈し、投票などの行為に反映させる実践に結びつく(p.32)。それは、大正・昭和教養主義の「カルチャー」ではなく政治的教養という市民の条件なのだ(p,100)。「国民」が所与のものとして与えられるものないし義務だとしたら、「市民」とはそれになるものないし権利である。本書が説く「教養」とは私たち一人一人が「市民」の自覚をもつための回路である。きみには「教養」がありますか? 構造主義からサブカル、スピリチュアルまで広い視野に立ちしかもそれらの知を共感をもって生きる著者の真摯な格闘の軌跡。時として鋭角化するエクリチュールは大いなる仏法の慈悲に包まれているように思われる。