ドビュッシーのスピリット

 渋谷、公園通りクラシックスでAyuo and Seashellを聴く。Debussy特集である。Pierre Louysの散文詩集『ビリティスの歌』にインスピレーションを得たドビュッシーは歌曲、語りと室内楽(草稿のみ)、ピアノ連弾のフォーマットで音楽作品を書いた。高橋鮎生はそれらにさらに手を加え、『6つの古代エピグラム』(弦楽四重奏曲ヴァージョン)、『語りと室内楽のビリティスの歌』(日本語ヴァージョン)、『ビリティスの唄』(英語ヴァージョン)を織り交ぜて披露した。それに上野洋子の短い弦楽四重奏曲、Ayuo作曲のダンスやアカペラを伴う弦楽四重奏の音楽などが演奏された。上野の作品もホールトーン・スケールを駆使したドビュッシー的なテイストが溢れるもの。AyuoのブズーキにYoshieのベリーダンスは「東」や「神秘思想」へ向かうドビュッシーの眼差しとテクストのエロティシズムにさまざまなスポットライトをあてる。ピエール・ルイスが夢想したギリシャ古代の女性ビリティスの物語はドビュッシーによって音楽的肉体を与えられ、Ayuoはその意匠を刷新する。緩やかなポエジーの連鎖のなかにたゆとうイマージュの変貌を僕らは楽しんだのだが、そのポエジーの結び目はやはりドビュッシーである。ドビュッシーのスピリット(霊)が地下倉庫のような空間を満たしさまざまに芽吹いた一夜。
 Ayuoの作品としてはEurasian Tango2が圧巻。3年前に見た多和田洋子高瀬アキのステージもそうだったような、音楽と言葉がスリリングに協働する稀有の時間。30年前ジャンジャンと呼ばれていたこの場所で何度か見たシェークスピア・シアターの舞台がふと頭をよぎった。