楽空墨 LakouZumi 2

 15時半開始、終了は18時をまわっていた。吉祥寺のSaund Café dzumi、まさかこの時代にフリージャズ系の「ジャズ喫茶」が存在するとは思わなかった。また来よう。「群島‐世界論/カリブ音響編」と銘打たれた今福龍太&星埜守之によるカリブ海文化=音楽トーク。ものすごい(僕にとっては)情報量! 今福さんの仕事は学問をアートにすることだと思う。収穫その1。Glissantの新刊La Terre le feu l'eau et les vents(2010)。奴隷制に関するさまざまなテクストを集めたアンソロジーだそうだ。最近は共著でさまざまな政治的マニフェストを出版しているグリッサンだが、その詩学の終着点は個人的なテクスト生産から集団的編集へのシフトなのだろうか。ディスクールとは個人の境界を溶解していくものなのかも知れない。収穫その2。マルティニク出身の驚くべきフリージャズ・トランペッターJacques Coursil。2005年のCD『Clameurs』はマイルスを10倍渋くしたようなとつとつたるトランペットに乗せてグリッサンのL'archipel des grands chaosがこれまた極渋の朗読で流れる。実にグリッサンの世界と通底する音楽的展開。グリッサンの詩学はきわめてブルージーである点が実はカリブ海において異質ではないかと僕は思っているのだが、このトラックを聴いてその思いを強くした。ここに聞こえるのは「世界ブルース」以外のなにものでもない。ブルースは悲劇とはちょっと趣を異にしているのではないかと僕は思う。それは人間が感じる強い主体的慟哭の感情であり、その真実味は単なる嘆き節には収まらない根源的な強さを放射する。ブルースの力とはそうしたものではないだろうか。以上2点、さっそくアマゾンで注文。収穫その3。星埜さんによるヌーヴェル・カレドニ−の女流作家Déwé Gorodeデウェ・ゴロデの紹介。
 それにしてもフリージャズからキューバ、マルティニク、ドミニカ、いろんな音楽が聞けた。おまけにアラン・ロマックスが30年代に採録したハイチ音楽のCD10枚組まで飛び出し、マヤ・デレンの話まで飛んで行った。「映像+文学」とはちがった新鮮さを味わわせてくれた「音楽+文学」セッション。音楽も思考を誘発する。(ちょっとくたびれたけれど。)