チェルノブイリから26年

 渋谷のUPLINKXでゲイハルター監督『プリピャチ』(1999)を観る。1986年のチャルノブイリの事故から12年後、発電所から4kmのところにある街、プリピャチを描くドキュメンタリー。かつては原発関係の仕事で栄えたがいまは廃墟と化した立ち入り制限地区に自主的帰還した老夫婦、低賃金で働くチェルノブイリ発電所の技術者、環境研究所に勤める女性らのインタヴューが淡々とすすむ。放射能に汚染されたふるさとで生きようとする老夫婦の姿に、人間の生命力の強さと、原子力という生命圏にあるべきではないテクノロジーを安易に持ち込んだ人間の犯したとりかえしのつかない愚行の切なさが二重写しになる。息のつまるインタビューの連続するモノクロームのフィルムの後半でカメラが野外の雪原を写しだすとき、なんとほっとすることだろう。人間は自然のなかで生きているのだ。
 上映のあと、最近刊行された注目のグラフィック・ノベル『チェルノブイリ、家族の帰る場所』の作者フランシスコ・サンチェスさんとナターシャ・ブストスさん、それを翻訳した管啓次郎氏の3人のトークチェルノブイリの事故をめぐる3世代の家族のストーリー。チェルノブイリと福島が直結することは言うまでもない。1986年にはまだ生まれていなかった高校生に読んでもらいたい。原発事故の問題とはひとつの国家の問題などではなく、時間と空間を超えた全‐世界的な問題なのだという認識をもってもらうためのこの上ないテクストなのだから。そして巻末にある「現在稼働中の原子力発電所」のマップをじっくり眺めることだ。
 プリピャチとは5つの川の合流点という意味だそうだ。