津田直写真展Storm Last Night / Earth Rain House

早目に仕事を切り上げて品川のキャノン・ギャラリーSへ。津田直のすばらしい写真展を見る。8日の管啓次郎とのアーティストトークが満員で入れなかったで今日になった。アイルランドのドネゴル、ディングル半島、アラン諸島スコットランド北方のアウターアイランズなどをフィールドに荒涼たる岩と海の風景を取り続けた二つのシリーズ。誰でも心のなかに潜む原風景と共振する風景と出会うとき、その出会いは電光石火の煌めきを放つ。津田直さんの写真との出会いはぼくにとってそのようなものだった。5000年前の無文字文化を生きた人々の遺跡の沈黙。自然のなかにかすかに痕跡をとどめる人為の残滓。想像力は無限に広がり茫漠とした海と空と風のなかに焦点を結ぶことなく消えてゆく。照明を落とした薄暗いアトリエ空間のなかに点々と浮上する石積みの呪文。ぼくはその場所に立っていたことがあるかのようにその風景を凝視し続けた。
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ドネゴルという地名がなつかしかった。2006年夏のアイルランド旅行を思い出した。ダブリンで車を借りて出発し、アイルランドの北半分をくるっと時計回りに走り、ベルファーストを経由してダブリンに戻る旅だった。シェイマス・ヒーニーの故郷ベラーヒ・ボーンにも立ち寄った。ドネゴルに滞在したのは8月8日、ケアデューに2泊してアイリッシュ音楽をたっぷり聴いたあと、西の果ての小村グレンコロンキルを目指すあいだに一泊したのだった。ドネゴルはエスケ川河口の小さな町だ。干潮時には水が引き硫黄の臭いがかすかに広がる。ケアデューでライブを聞いてすごくよかったアイリッシュ・バンド、ダーヴィッシュのCDを買い、ドムスというレストランで食べた魚がおいしかったことを覚えている。